secondfiddle@人柱日記

ま、パソコンと車とカメラとそれから・・・・・・

似非関西風漫才

値上げ徹底対抗策

「珍でーす」
「没起でーす。二人併せて珍没起(ちんぼつき)でーす。宜しくお願いしまーす。誰ですか『勃起』って、いやらしいじゃありませんか。勃起じゃなくて没起よ没起。え? 変な芸名だあ?」
「誰もそんな事ゆーてへんゆーてへん。ところで珍さんよ」
「へいへい、なんでっしゃろ」
「昨今は円安とかで何でもかんでも値上がってますなぁ」
「そーなんですよ、電気ガス水道、何でも何でも鯉のぼりでんがな」
「こ・・・・・・鯉のぼり?」
「鯉のぼり・・・・・・ちゃいまんがな。えー・・・・・・ウサギのぼり」
「それを言うならうなぎのぼりだろ」
「世間一般ではそう言いますな」
「なんやねん世間一般って。フツーそう言いますわな」
「まあまあどうでもいいでっしゃろ。ところで何か生活防衛してしてまっか?」
「いやー、これといったことはしてへんねぇ。珍さんは何か生活防衛でも」
「うちんとこはしてまっせー。それも徹底的でっせー」
「ほう、それは凄いな。是非参考にしたいんで話してくれへんか」
「聞きたい?」
「そりゃー聞きたいがな」
「これでどうだあ」
「なんやねん、その右手は」
「五千円で手を打とうか」
「金取んのか」
「ウチらにとっては最高極秘機密事項でんがな。そんじょそこらに教えるわけには行きまへん」
「同僚のよしみって事でそこんとこ何とか」
「仕方ない聞かせてやろう、我が家のトップシークレットを。良いか下僕。これからワシのことを値下徹底対抗大魔王様と呼びたまえ」
「げ・・・・・・下僕ぅ? だ・・・・・・大魔王ぅ? 大層なこっちゃな。まあ何でも良いから大魔王、教えて欲しいぞ」
「大魔王、じゃなくて、大魔王様」
「なんでもいいがな、兎に角大魔王様おせえて」
「頭(ず)が高いッ」
「頭が高い? どうすれば良いんかな」
「そこに正座して両手をつき、頭(こうべ)を垂れよ。そしてこう言うのじゃ。『大魔王様~教えてたもれ~』」
「なんだか面倒くさい話になってきたな」
「これ、下僕、何をぶつぶつ言っておるのじゃ。早くせえ」
「分かった分かった、こうだな。大魔王様~教えてたもれ~」
「うむ、よろしおま。・・・・・・エッヘン、下々の下僕よ、聞かせてやろう我が秘伝の術をッ」
「何を大層な」
「なんか言ったか?」
「イヤイヤ何でもおまへん」
「まず風呂からいこか」
「ほう、まず、風呂、と」
「風呂は一週間に一度。風呂桶に水を溜める。水道代はかかるがしゃーない。ここから重要。そっから汲み上げ頭からざざっと被る。それを二回」
「何だそりゃ。水風呂かいな。夏は良いとしても冬場はそれじゃ寒くて風邪引くわ」
「そこは精神力。心頭滅却すればまた火もすずし」
「そんな無茶な、シャンプーとか石けんは?」
「そんなもん使わん、全身ぶるぶるっと振ればタオルも使わん」
「犬じゃあるまいし。それによくあのゴリラが黙ってないな」
「誰がゴリラじゃ、我がサイがゴリラというのかね君は」
「ゴリラじゃなければなんなんだ」
「失敬だぞ君は。我がサイはオランウータンだ」
「君んとこは動物園かいね。まあ良い。憚りはどうする」
「憚り?」
「そうだよ生理現象は止められんだろ」
「憚りって何だ?」
「雪隠だよ雪隠。便所だよ便所」
「君、言うことが古いな。現代ではトイレと言うんじゃ。なんもしらんな、君は」
「トイレでも何でも良いがな。君んとこは未だにくみ取りだったな」
「何を言うかね君は」
「足踏み滑らしておっこったって君んとこのゴリラ、じゃない、サイじゃなかったか」
「何を言うか、落ちたのはワシじゃ」
「おいおい落ちたって話、ホントだったのか」
「それ以来近所の公園ですます。それも個室に入る」
「はあ?」
「公衆トイレは良いぞ。なんせタダ。トイレットペーパー使い放題放題。ちょっと固いのがなんだけどね、ペーパーがなくなったら清掃局に文句を言う」
「紙がねえぞッてか」
「直ぐに飛んでくる」
「んな、馬鹿な。冷暖房はどうする。これから先寒くなる一方じゃ。トイレは寒いぞ」
「そんときは区役所とか公共施設を利用する。冷暖効いてるし照明も明るいし、しかもトイレ付き。ここのペーパーは柔らかくて気持ちが良い。毎日入り浸りじゃ」
「それで電気代を節約かね。でもまあ目をつけられるかも知れんぞ。『もしもしそこの旦那、いい加減にしてくれんか』って」
「一度警察に呼ばれた」
「なんだと」
「その時、言ったね」
「何を言うたんじゃ」
「刑務所にぶち込んでくれ、と」
「それじゃあまるっきり犯罪者じゃ。それでどうなった?」
「願い虚しく小言を言われて無罪放免」
「なんのこっちゃ」
「アレは残念だった。もうちっと考え変えんと」
「やっぱり犯罪者やな」
「まあ、そんとき以来、河岸を変えることにした」
「そんな都合良く行くかいな」
「複合施設なんか良いぞー。大勢いるから紛れ込めば一人や二人分からんて。家電売り場にいけばテレビ見放題。本屋に行けば読み放題。疲れたらそこかしこにソファがあって座り放題。さらに地下に行けば食い放題」
「地下で食い放題? それこそ食い逃げの犯罪じゃないかいッ」
「ちゃうちゃう、試食ってえのがあるだろ? アレを利用するんだな。色んなもんが食えるぞ。特に最近は顔なじみになってな、タッパを出すと詰めてもらえる」
「何がタッパじゃ。よーいわんわ」
「なにゆうとる、これが生活防衛じゃ」
「しかし大魔王様。それじゃ腹は膨れんって」
「そこが問題だな」
「ホレ、見ろ」
「だが我が家には先祖代々の家訓がある」
「家訓ー? またなんかけったいな家訓だろ」
「ご飯は炊く」
「ほうほう」
「味噌汁は作る」
「まあ、日本人だからな、味噌汁くらいないとな」
「小ぶりの茶碗に一杯の白米を盛る」
「なんで小ぶりなんじゃ」
「大きいとそれだけ喰いとうなる。そこをぐっと我慢するために小ぶりな茶碗だな」
「茶碗の大きさは大体決まっておるだろう。それを小ぶりの茶碗って。どれくらいの事を言ってるんだ?」
「そうさな・・・・・・おちょこ程度だな」
「おい、待て。何だおちょこ程度って。酒飲むわけじゃなかろうに」
「まあ、人それぞれだがな。兎に角茶碗を手にする」
「ほう、手にする」
「ぐっと睨む」
「に・・・・・・睨む?」
「するとな不思議なことにおちょこが丼に見えてくる」
「はあ?」
「精神力じゃ。そこに味噌汁を注ぐ」
「おちょこにか? 注ぐったって無理だろう」
「いや、スプーンに一杯」
「スプーンに一杯? なんじゃそりゃ」
「そしてそれを喉のおくーのほうに放り込む。これで食事完了。これを一日に一回」
「一日一回?」
「そう、一日一膳」
「おい、意味が違うぞ。副菜はどうする副菜は」
「副菜?」
「そーだよ、肉とか野菜とか」
「試食会で得たタッパを並べる」
「正気か、大魔王。大人しく聞いてりゃいい気になりやがって。それに、一日に一回だあ? 栄養失調になるだろうが」
「腹が減れば水をがぶ飲みする」
「それじゃあ水道代がかかるだろ。水道代がッ」
「風呂桶にためた水を鱈腹飲む」
「一週間に一回の水風呂かいね。そんな無茶な」
「そう、一週間に一回だからそうそう水は減らない」
「ちょっと待て。何ゆうとる。一週間前の水だろ不衛生じゃないか」
「風呂につかっていないので綺麗。澄んだ水を飲むのは健康に良いぞ」
「何が澄んだ水じゃ。どちらにしろ栄養失調で病院行きだ。どうすんだ」
「そこはそれ、現代医学では死なせるわけにはいかん」
「ま、そりゃそうだ」
「しびとを出せば病院の評価が下がる。患者さんは誰も来なくなる。かくして倒産、と」
「エラいこというやっちゃな、病院が怒るぞ」
「ま、そんなわけで死なすわけにはいかんさかい、三度三度規則正しく出す。そこで入院中は出されたモノを平らげる」
「まあそうだろうな」
「そして左右に目を配る」
「ほうほう」
「きょうび、入院患者は年寄りが多い」
「ほうほう」
「食べきれなくて残すこともある」
「余すなんてもったいないな、で?」
「あちこちの余り物を有り難く頂戴する」
「おい、こら。なんて事するんだ君は」
「これも家訓じゃ、それはそうと、最近出番のわりにはギャラが非常に少ない気がするけど、なんか隠してないかい?」
「何も隠しとらんよ」
「ギャラが入れば、帝国ホテルのデナーが待っている。夫婦揃って、唯一の楽しみじゃが、入らんことにはどうにもこうにも」
「何だデナーって」
「食いもんがデナー・・・・・・」
「それを言うならディナーだろ。言葉を知らんやっちゃな」
「どっちにしろ労働の対価としてはだな、モノは上がるが給料が少ない。今の日本を象徴していると思わんか?」
「何を大層な。・・・もらったギャラをな、まず半分にする」
「そりゃそうだ、二人でなんぼだからな」
「半分にしたギャラをまずワシがもらう」
「ほうほう、ほいで?」
「残りの半分を二人で分ける」
「なんだか訳分からんぞ。分かりやすく日本語で言えよ」
「喧しいやっちゃな・・・・・・例えるとだな、ギャラ四千円、入ったとする」
「ほうほう、四千円な」
「まず半分すると二千円だな」
「そりゃそうや」
「その半分をワシがもらい受ける」
「ほうほう」
「残りはいくらだ?」
「そうさなあ二千円か?」
「そうだろ? その二千円を二人で分ける」

 ・・・・・・その後コンビはケンカ別れしたという。